歓談夜話

あなたにとって、うまくいかない日があっても大丈夫です。下には下がいて、例えばそれは僕のことです。

復讐

堕落は際限というものを知らない。

 

椅子に座って本を読んでいると、そうだ、くつろぎのためには温かいお茶が欠かせないなどと思い立ちT-falのスイッチを入れにいきたくなる。

 

お湯が立っていよいよお茶が入りましたよという段階となると、右手にはティーカップ、左手には文庫本をといった形でえっちらおっちら卓まで持って歩いたりする。

 

そしてティーカップを無事台所から運び終わったかと思えば、次は椅子に座って読書することさえも億劫になってくる。

 

そうして足の先にわずかに引っかかっていた靴下を放り捨てると、ソファに寝っ転がって読み差しの本に取り掛かる。

 

人がこうなってしまうと、いい迷惑なのは卓の上に放って置かれた淹れたばかりのお茶のほうだ。

 

あれ、そういえば飲み物はどうしたっけと本から視線をあげた時にはとっくに僕たちの関係性とお茶の温度は冷え切っていて、カップの持ち手だけがツンとそっぽを向いている。

 

あぁ、悪いことをしたねと電子レンジに優しく運びいれ、スイッチを押す。温めの始まったブーンという音に満足すると、僕は本に戻る。

 

翌朝、まるでミイラのように干からびたティーカップが、ラップに包んだ米を温めるために電子レンジの扉を開けた僕をひどく驚かせたのは言うまでもない。

 

おしまい。